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福岡高等裁判所 昭和51年(行コ)14号 判決 1978年5月30日

福岡市中央区春吉三丁目一四-二五

控訴人(附帯被控訴人)

畠田正蔵

右訴訟代理人弁護士

森田莞一

同市中央区天神四丁目一-三七

被控訴人(附帯控訴人)

福岡税務署長

近藤三保

右訴訟代理人弁護士

国武格

右指定代理人

中村寧

江崎博幸

大神哲威

米倉実

中島亨

右当事者間の所得税更正処分等取消請求控訴、同附帯控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一、控訴人の本件控訴を棄却する。

二、被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

(一)  被控訴人の控訴人に対する昭和三九年分、同四〇年分の各所得税について、いずれも昭和四三年三月七日付各更正通知書をもつてなした更正処分(審査請求によつて取消された部分を除く。)のうち、昭和三九年分につき所得金額五七三万一、二九七円を越える部分、同四〇年分につき所得金額金四七五万二、三五九円を越える部分及び右各部分に相応する税額ならびに重加算税額を各取消す。

(二)  控訴人のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用(控訴費用、附帯控訴費用を含む。)は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

一、控訴代理人は「一、原判決を次のとおり変更する。二、控訴人の昭和三九年、同四〇年、同四一年分の各所得税について、被控訴人のなした次の各処分を取消す。(一)昭和四三年三月七日付『昭和三九年分所得税の更正通知書』をもつて所得金額及び税額を更正し、重加算税を賦課した処分のうち、所得金額二二四万一、七七八円、税額四五万七、五八〇円及び重加算税額六万八、四〇〇円を越える部分。(二)右同日付『昭和四〇年分所得税の更正通知書』をもつて所得金額及び税額を更正し、重加算税を賦課した処分。(三)右同日付『昭和四一年分所得税の更正通知書』をもつて所得金額及び税額を更正し、重加算税を賦課した処分。三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに附帯控訴につき、「被控訴人の附帯控訴を棄却する。」との判決を求めた。

二、被控訴代理人は、主文第一、第三項同旨の判決を求め、附帯控訴として、「原判決を次のとおり変更する。被控訴人の控訴人に対する昭和三九年分の所得税について昭和四三年三月七日付更正通知書をもつてなした更正処分(審査請求によつて取消された部分を除く。)のうち所得金額五七三万一、二九七円を越える部分及び右部分に相応する税額ならびに重加算税額を取消す。控訴人のその余の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

三、当事者双方の主張並びに証拠の関係は、次に訂正、附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(一)  原判決一六枚目表五行目の「右金員が銀行借入によつて賄われている」を「右金員中八八〇万円が本件銀行借入金によつて賄われている」と改める。

(二)  同一六枚目表六行目の次に次のとおりそう入する。

「控訴人は、前記金一、〇〇〇万円のうち金一二〇万円は、本件銀行借入金以外の熊本相互銀行の預金口座を解約して支払つたが、残金八八〇万円については本件銀行借入金によつて支払つた。控訴人は税務調査の当初、右金一、〇〇〇万円の資金の出所を追及されたが、その当時は未だ控訴人の多くの架空名義の預金、借入金も調査官に知られていなかつたので、控訴人は調査の進展を阻止するため証券会社勤務の友人に相談し同人が預つていた黒木又雄という全く他人の「ワリコー」の書類を使用し資金六〇〇万円の出所につき虚偽の説明をしたものであるが、このことが調査官の誤解を招き、真実は本件銀行借入金よりの支出であるのに、これが認められなかつたものである。」

(三)  同一六枚目裏四行目の次に次のとおりそう入する。

「右相殺のなされている借入金は相当分見込まれるのであるが、このうち一目瞭然たるものは次表のとおりであり、少なくとも次表掲記の分の借入については貸付に廻されたと見ることは不合理である。

(四)  当審の新たな証拠関係

控訴代理人は、甲第二二、第二三号証、第二四号証の一、二、第二五号証を提出し、当審証人上田竜己の証言並びに当審における控訴本人尋問の結果を援用し、乙第五六ないし第六〇号証の成立は不知と述べ、被控訴代理人は、乙第五六ないし第六〇号証を提出し、当審証人梯賢一の証言を援用し、甲第二二、第二三号証、第二四号証の一、二、第二五号証の成立は不知、と述べた。

理由

一、当裁判所は、控訴人の本訴請求は主文第二項(一)掲記の限度において理由ありとしてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却すべきものと判断する。

その理由は、次に訂正、附加するほか、原判決理由の説示するとおりであるから、ここにこれを引用する。

(一)  原判決二五枚目裏一二行目の次に次のとおりそう入する。

「なお、当審証人上田竜己の証言により、いずれも成立が認められる甲第二二、第二三号証、第二四号証の一、二、第二五号証(いずれも入金、出金対照表)には昭和三九年ないし同四一年の各年につき、控訴人の資産より畠田産業への仮払金の記載がある。しかしながら、右甲号各証は、右証言によつても、その基礎となつた原資料の存在が明らかでないか、あるいは、原資料が存在しないものであり、これを作成した上田竜己の調査の方法並びに作成の経緯もまことに不備であつて、その記載内容にはたやすく信を措くことができないものである。

しかして、仮りに右仮払金の記載を根拠のあるものとの前提に立ち、右証言と合わせ検討してもなお、これらと本件銀行借入金とのつながりは判明するに至らない。」

(二)  同二六枚目表六、七行目の「熊本相互銀行の預金口座を解約して銀行保証小切手を組み、」を「自己の熊本相互銀行福岡支店の無記名定期預金三口額面合計金一二〇万円を満期前に解約し、さらに同銀行支店から金二九七万円の手形貸付をうけ、これらの資金をもつて額面四〇〇万円の同銀行の保証小切手を組み」と改める。

(三)  同二六枚目裏三行目の次に次のとおりそう入する。

「なお、控訴人は当審において右の点につき、税務署の調査の進展を阻止するため証券会社勤務の友人に相談し同人が預つていた訴外黒木又雄のワリコーの書類を借用し、資金六〇〇万円の出所につき虚偽の説明をしたが、これが調査官の誤解を招き、真実は本件銀行借入金よりの支出であるのにこれが認められなかつた旨主張している。しかし、仮りに右ワリコーが真実実在する黒木又雄の所有であり控訴人の資産と無関係なものであつたとしても、原審証人清成英雄、同吉積徳夫の各証言に照らして検討すると、このことから直ちに残額金六〇〇万円が本件銀行借入金から支出されたものということはできない。」

(四)  同二六枚目裏六行目の「有価証券があてられていること、」を次のとおり改める。

「有価証券があてられていることが認められ、これに反する証拠はない。もつとも当審における控訴本人尋問の結果中には、追加証拠金として現金を何回も入れたことがある旨の供述があるけれども、同供述によつても、本件銀行借入金が商品取引の資金として使用された事実を認めるに足りない。」

(五)  同二七枚目表四行目の次に次のとおりそう入する。

「なお、当審における控訴本人尋問の結果中には、右金五〇〇万円の預金は訴外森田某の懇願により紹介預金として預入れたものである旨の供述があるが、同供述によつても、本件銀行借入金が右金五〇〇万円の預金の資金となつた旨の控訴人の主張を認めるに足りない。」

(六)  同二七枚目裏一行目の「しかしながら、」から同六行目までを次のとおり改める。

「しかしながら、前示のとおり多数の架空名義の預金口座を有し、これを担保にして頻繁に多額の金員を銀行から借入れ自己の貸金業の資金として複雑多岐にわたる運用をしていた控訴人が、時にはその都合により、通常の弁済の方法によらず銀行の担保定期預金による相殺の処理に委せる方法によつて、銀行への債務の消滅をはかつたことも十分考えられることであつて、相殺の処理がなされていることから直ちに前示認定を覆してこれに対応する本件銀行借入金が第三者への貸付資金にあてられていなかつたものということはできない。」

(七)  同三一枚目表五行目の「被告は」から同一〇行目までを次のとおり改める。

「次に、当審証人梯賢一の証言によりいずれも成立が認められる乙第五六号証、同第五八号証に同証言を総合すると、控訴人は昭和四〇年度において手形割引料として金一〇万〇、九二五円の収益を得ていたことが認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。」

(八)  同三一枚目表一二行目から同裏一二行目までを次のとおり改める。

「前掲乙第五一号証、当審証人梯賢一の証言によりいずれも成立が認められる乙第五七号証、同第五九、第六〇号証に当審並びに原審証人梯賢一の証言を総合すると、控訴人は訴外古賀平七に対する金八五〇万円(控訴人支出額金六五〇万円)の貸付につき金員の回収ができなかつたため、担保に供された不動産を金一、一〇〇万円で売却し、元金、利息を回収したほか、諸経費等を支払つた後、少くとも金五八万六、七二〇円の利益をあげたことを推認するに足り、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。」

(九)  同三九枚目裏七行目から同一二行目までの表を次のとおり改める。

(一〇)  同三九枚目裏末行目の「右事業所得の収入金額については」「右事業所得の収入金額は、手形割引料収入金一〇万〇、九二五円を含むものであるが、」と改める。

(一一)  同四〇枚目表五行目から一〇行目までの表を次のとおり改める。

二、以上の次第で、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、被控訴人の附帯控訴は一部理由があるから原判決を変更することとし、訴訟費用(控訴費用、附帯控訴費用を含む。)の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤秀 裁判官 篠原躍彦 裁判官 森林稔)

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